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第8回 蜂蜜エッセイ応募作品

「いいもの」をさらに「おいしいもの」へ

鮎川 まき

 

 「ただいま。今日は『いいもの』あるよ」

 その声とともにリビングのドアが開くと、ドキッとしてしまう。
 出張で飛び回る夫が同僚や取引先から貰ってくる『いいもの』は、30cmもあるひょうたんのような謎の野菜だったり、期限がそう長くない海苔の瓶詰め3本だったりするからだ。

 張本人である夫は、キッチンに置いた瞬間にその存在を忘れてしまう。夫婦でどうにかおいしく食べ切らなくては。頭を抱えるのはいつも料理担当のわたしだ。

 ガチャン、と重い音がした紙袋をのぞくと、瓶詰めのハチミツが入っていた。なんと!日持ちするし、調理もいらないし、料理にも使える。しかも自分では買えないちょっとした高級品だ。これはうれしい。

 瓶には「とち」と書かれたラベルが貼られていた。「とち」ってあの栃だろうか。頭の中に、テーブルを探していたときに勧められたある一枚板が浮かぶ。優しいベージュの色合いと上品な木目。あの栃からハチミツが取れるなんて、まったく知らなかった。

 そおっと容器をかたむけて、真珠ほどの大きさのハチミツを指に乗せる。
一舐めすると、こっくりとした甘さと華やかな香りが通り抜けた。味が残っている間に確かめたくて、あわててパンフレットを開くと、栃の木のハチミツはフローラルな香りが特徴だとあった。
 なるほど。口から鼻にかけてふわりと広がる香りは確かに花のもの。とってつけたような主張の強さはなく、軽やかに風に乗ってきたような、まさに自然の香りだった。スーパーで買うものとは明らかに違う。ごくっと飲み込むと、甘みが舌にベターッと残らないのもよかった。

 さて、これをどうしたものか。
 香りを生かすのであれば、料理に使ってしまうのはもったいない。そう思い、ヨーグルトや牛乳に混ぜてシンプルにいただいている。
 お気に入りは、あたためた牛乳にティースプーン二、三杯ほどのハチミツを入れた、すこし甘めのホットミルクだ。ハチミツの柔らかい甘さと牛乳の甘さは決してケンカせず、寒い日の夜にドラマを見ながらゆっくり飲むのにちょうどいい。
 もちろん冷やしても美味しいだろうけど、温めると香りが湯気と一緒に広がり、さらに強く引き立てられる。

 「おいしい」
 夫がそう呟いて、料理担当として冥利に尽きる。

 次はこの香りを生かしながら、料理にも使いたい。そうだ。カボチャとチーズに合わせるなんてどうだろう。
 どんな「いいもの」も「おいしいもの」に変えて見せましょう。そんな意気込みで、今日もキッチンに立っている。

 

(完)

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